概要
この投稿では固有値を検算する手法と,その証明を示す.固有値計算を実装した場合や,固有値計算で桁落ちが疑われる場合など,計算した固有値が正しい値か確認したいことがある.そこで,下記に示す行列の性質を利用すると,簡易的に固有値が正しい値か検算できる.この性質は一般によく知られている.
固有値の検算手法と証明
対角化可能な nn 次正方行列の行列式は,固有値の積に等しい. det(A)=λ1λ2⋯λn=n∏i=0λidet(A)=λ1λ2⋯λn=n∏i=0λi |
[1] 特性方程式 (固有方程式) の導出 (Ax=λx,x≠0⇔det(A−λI)=0) の導出
固有値・固有ベクトルは,n 次正方行列 A に対して,
Ax=λx, x≠0
となるような定数 λ とベクトル x が存在するとき,
λ を A の固有値,x を固有値 λ に属する A の固有ベクトル,と定義する.
式 (1) を変形して,
(A−λI)x=0
とする.ここで,逆行列 (A−λI)−1 が存在すると仮定し,式 (2) の両辺に左から掛けると,
(A−λI)−1(A−λI)x=(A−λI)−10⇔ Ix=0⇔ x=0
となる.これは,条件 x≠0 に反するため,逆行列 (A−λI)−1 は存在しない (行列 (A−λI) は正則でない).
したがって,
det(A−λI)=0
となる.(※正則行列の条件は,det(A−λI)≠0 [5])
[2] det(A)=λ1λ2⋯λn=∏ni=0λi の導出
行列式の定義より,det(A−λI) は,λ に関する n 次多項式となる.
解を λ=λ1,λ2,⋯,λn とすると,
det(A−λI)=(λ1−λ)(λ2−λ)⋯(λn−λ)=0
となる.式 (4) は任意の λ について成り立つので,λ=0 を代入して,
det(A−0I)=(λ1−0)(λ2−0)⋯(λn−0)⇔ det(A)=λ1λ2⋯λn=n∏i=0λi
[付録] 行列式の定義
行列 A を n 次正方行列とし,その成分を,aij と表すとき,行列式の定義は,
det(A)=∑σ∈Snsgn(σ)n∏i=0aiσ(i)
sgn(σ)={−1:奇置換1:偶置換
となる [6][7].
Sn |
: n 個の順列すべてで構成された集合 |
σ(i) |
: 1 から n の i 番目の順列 (置換) |
対角化可能な n 次正方行列の m 乗の対角和は,固有値の m 乗和に等しい. Tr(Am)=λ1m+λ2m+⋯+λnm=n∑i=0(λim) |
[1] 行列 A の対角化
[2] Tr(Am)=λ1m+λ2m+⋯+λnm=∑ni=0(λim) の導出
固有値の定義,
Ax=λx, x≠0
より,固有値を λ=λ1,λ2,⋯,λn とし,これに対応する固有ベクトルを x=x1,x2,⋯,xn とすると,
Ax1=λ1x1, Ax2=λ2x2, ⋯, Axn=λnxn⇔ A(x1,x2,⋯,xn)=(λ1x1,λ2x2,⋯,λnxn)⇔ A(x1,x2,⋯,xn)=(x1,x2,⋯,xn)(λ1Oλ2⋱Oλn)⇔ AX=XΛ⇔ X−1AX= Λ
のように対角化できる.
[2] Tr(Am)=λ1m+λ2m+⋯+λnm=∑ni=0(λim) の導出
[1] の式 (5) の両辺を m 乗すると,
Λm=(X−1AX)m⇔ Λm=(X−1AX)(X−1AX)⋯(X−1AX)=X−1AmX
となる.式 (6) の両辺をトレースすると,トレースの巡回性 (Tr(AB)=Tr(BA)) により,
Tr(Λm)=Tr(X−1AmX)⇔n∑i=0(λim)=Tr(X−1AmX)=Tr((X−1)(AmX))=Tr((AmX)(X−1))=Tr(AmXX−1)=Tr(Am)
となる.
[付録: 1] トレースの定義
行列 A が n 次正方行列で,その成分が aij で表されるとき,トレースの定義は,
Tr(A)=n∑i=1aii
となる.
[付録: 2] トレースの巡回性 (Tr(AB)=Tr(BA)) の証明
行列 AB の対角成分の和 Tr(AB) は,∑ni=1∑nj=1aijbji と表さられるから,
Tr(AB)=n∑i=1n∑j=1aijbji=n∑i=1n∑j=1bjiaij=n∑j=1n∑i=1bjiaij=Tr(BA)
となる.
参考文献
[1] math.stackexchange.com: Verifying eigenvalues
[2] 高校数学の基本問題: 固有値,固有ベクトルの定義
[3] 理工系数学のアラカルト: 任意の正方行列に対する行列式は,その行列の固有値の積に等しい
[4] 高校数学の美しい物語: 固有値,固有ベクトルの定義と具体的な計算方法
[5] 高校数学の美しい物語: 行列が正則であることの同値な条件と証明
[6] 高校数学の美しい物語: 行列式の3つの定義と意味
[7] 行列式の詳細な定義と証明については,[7] を参照のこと.
[2] 高校数学の基本問題: 固有値,固有ベクトルの定義
[3] 理工系数学のアラカルト: 任意の正方行列に対する行列式は,その行列の固有値の積に等しい
[4] 高校数学の美しい物語: 固有値,固有ベクトルの定義と具体的な計算方法
[5] 高校数学の美しい物語: 行列が正則であることの同値な条件と証明
[6] 高校数学の美しい物語: 行列式の3つの定義と意味
[7] 行列式の詳細な定義と証明については,[7] を参照のこと.
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